2022.12.28

両利きの経営とは?新規事業と既存事業のバランスが企業成長の鍵に

両利きの経営とは?新規事業と既存事業のバランスが企業成長の鍵に
両利きの経営とは、企業の成長に欠かせないイノベーションのための経営理論です。この記事では、成熟しきった企業の陥りがちなサクセストラップを回避し、さらなる成長を遂げるために必要な経営者の考え方についてまとめました。

両利きの経営とは

両利きの経営は著名な経営学者の提唱した経営論です。この経営論では主に、大企業や成熟した事業を持つ企業のイノベーションについて説いています。

まずは両利きの経営の概念や理論の元になった著書について知っておきましょう。

成熟した企業がイノベーションを起こすための経営論

「両利きの経営」とは、現在主力となる事業を持ち、ある程度成熟を遂げた企業がイノベーションを起こすための経営論です。1つの事業で成功を収めた企業が再びイノベーションによって次なる事業を興し、企業の経営強化を図ることを論じています。

成熟した事業を持つ企業も、長く一つの事業にしがみついているだけでは衰退していくのみです。そこでイノベーションを起こし、新規事業を立ち上げるために効果的な「両利きの経営」という経営論が役立ちます。

経営学者の著書が話題に

「両利きの経営」という言葉は、経営学者の著書が話題となって広がりました。両利きの理論という言葉を生み出したのは、世界的な経営学者として知られるチャールズ・A・オライリー教授とマイケル・A・タッシュマン教授による著書です。

著書の中では、企業の新規事業探索の重要性とともに、探索の方法として両利きの経営が必要だと説かれています。著者の説いた経営方法は日本の大企業の苦手な部分であり、克服が必要な部分でもあることから、注目が集まりました。

両利きとは知の探索と知の深化をバランスよく実践すること

「両利きの経営」の「両利き」とは、知の探索と知の深化を両立させることです。著書の中では、知の探索と知の深化をバランスよく実践することで企業は長く経営を続けていけると紹介しています。

知の探索とは、企業が新しい事業を生み出すためにアイデアを探すことです。すでに成功している事業のみに固執せず、イノベーションを起こすことが目的となります。

知の深化は、現在成功し、利益を上げている事業について、今以上に成長させ、もっと利益を上げるために掘り下げることです。具体的には品質改善や性能の向上、業務の効率化などが挙げられます。

知の探索と知の深化をどちらも偏りなく進めることで、企業は成長も安定も手に入れることができるでしょう。反対にどちらかに偏重することは、衰退のリスクにつながるということでもあります。

両利きの経営が注目された背景

両利きの経営が注目されたのは、著名な作者の理論だからというだけではありません。昨今の市場や大企業の抱える課題が浮き彫りとなった結果、より多くの経営者が注目することとなりました。

技術革新と市場の変化の速さ

両利きの経営が注目された背景には、世の中の目まぐるしい変化があります。インターネットの出現を皮切りに、世の中ではIoTやAIなどによるDX化、クロステックによる新サービスの登場など、技術の発展による市場やサービスの変化が起こりました。

技術や市場の大きな変化によって、企業も時代の変化に合わせて変化していくことが求められています。大企業でも同様に、現在成功している事業にあぐらをかいていているだけでは、いずれ新興企業に追い抜かれてしまうでしょう。そのため成熟した事業を持っていても安穏としていられず、両利きの経営によって企業成長することが必要となったのです。

消費者のし好も変化

両利きの経営が注目されたのは、技術だけでなく消費者のし好や消費行動も変わってきたためです。スマートフォンの浸透やコロナウイルス感染症拡大など、さまざまな要因によって消費者も変化しています。SDGsへの関心も高まり、社会的意義に共感できる企業の商品を選ぶ行動なども増えてきました。

消費者が変化したことによって、企業も消費者の求める商品・サービスの開発や事業の見直しが求められています。消費者の求める新規事業を作るとともに、既存事業を深化させて時代にマッチした事業へと発展させるためにも、両利きの経営の進め方が必要です。

イノベーションのジレンマに対抗

イノベーションのジレンマとは、既存顧客のニーズを果たすのに注力し過ぎて新しい需要に気づけず、新サービスに負けてしまう現象のことです。両利きの経営を実践できれば、イノベーションのジレンマに陥ることなく、新規事業を生み出す環境を作れます。

利益を確実に出せる既存のサービスがあると、イノベーションよりも既存事業の方に力を入れてしまうのはよくあることです。その結果大企業が、思い切ったサービスを打ち出した新興企業に負けてしまうことがあります。

イノベーションのジレンマは主に、すでに成功している企業に起こりやすいものです。成功している事業の既存顧客のニーズを重視するあまり、ニーズに関連する技術やサービス以外に目が向かなくなります。

長く経営を維持していくためには、大企業も既存事業で利益を追うことばかりに捉われず、新規事業にも目を向けていくことが大切です。両利きの経営では、既存事業ばかりに注力せず、バランスよく新規事業の開発も両立していけます。

両利きの経営の課題

両利きの経営は企業の発展と継続を可能とする経営論ですが、実践するためには課題もあります。 十分な対策もなしに取り入れることで失敗リスクも高まるため、あらかじめどのようなリスクがあるか把握しておきましょう。

大企業のカルチャーや組織アライメントが弊害

大企業へと成長した企業は、組織のカルチャーやアライメントに邪魔され、思い切ったイノベーションをする土壌が育ちにくくなってしまうことが多くなります。

両利きの経営を成功するためには、自社のカルチャーや組織構造を振り返り、社員が十分に能力を発揮できる環境があるか見直すことが必要です。トップダウンの構造や機械的な分業など、イノベーションの生まれにくい状況は両利きの経営を取り入れるのを邪魔する可能性があります。

サクセストラップ・コンピテンシートラップ

立ち上げた事業が成功することは喜ばしい反面、成功体験に固執するあまり身動きが取れなくなることがあります。これは「サクセストラップ」または「コンピテンシートラップ」と呼ばれる状態です。成功者の陥る罠という意味で、文字通り成功を収めた大企業などが成功体験に捉われ次に進めなくなることを示します。

サクセストラップに陥った企業は、成功した既存事業のやり方を変えることができず、新しい取り組みを取り入れることもできません。サクセストラップは主に新規事業を生み出す知の探索の弊害となります。成功するかどうか分からない新規事業にコストをかけることを恐れ、次の一歩を踏み出せなくなってしまうのです。

探索チームと深化チームの対立

両利きの経営では、知の探索と知の深化の実践チームの対立も起こりやすいものです。2つの取り組みは相反する作業であり、成果の見え方も異なります。特に知の探索は成果が出るまで時間がかかり、確実性もないため、知の深化を実践するスタッフから反発されることも多くなるでしょう。

知の探索の不確実さ

知の探索は、成功するかどうか分からない作業です。すでに成功している既存事業を深化させることより不確実であり、知の深化を手掛けるチームから見ると役に立たないものに見えます

知の探索の手間やコスト

知の探索には事業として成功するまでに、手間やコストもかかります。企業の中には成功するかどうか分からない作業に対して手間やコストをかけることに疑問を呈する人も多いでしょう。こうした知の探索にリソースを割くことへの疑問は、中長期的な視点が失われ、短期的な利益を追う思考から生まれます。

両利きの経営を実践するためのポイント

両利きの経営を実践するには、上記で述べた課題を解決し、新規事業と既存事業という2つの実践を正しく導いていくことが大切です。両利きの経営を実践し、成功させるために押さえておきたいポイントをまとめました。

資産のある事業領域で実践する

両利きの経営を実践するポイントとしては著書の中で、資産のある事業領域で探索と深化を実践することが挙げられています。知の探索も慣れない分野でゼロから始めるのではなく、すでにリソースを持った事業領域で実践することが大切です。

有名な事例に富士フィルムの成功があります。富士フィルムでは既存事業である写真ビジネスを元に、全く新しい化粧品分野への進出を成功させました。

リーダーが自らコミットする

両利きの経営を成功させるためには、リーダーシップが重要です。経営者自らが積極的にコミットすることで社員も経営方針に納得し、前向きに実践できるようになります。

両利きの経営で特に難しく、社内の理解を深める必要があるのは知の探索です。社内ベンチャーを積極活用するなど、経営者が育成と資金提供を進める必要があります。

社内ベンチャーを既存事業と切り離す

両利きの経営で知の探索と知の深化を両立させるためには、探索と深化の2つを切り離し、距離を置くことも大切です。知の探索にリソースを割くことを恐れ、スタッフを兼業で配置するのは一見効率的ですが、実は非効率で十分な成果が期待できません。

両利きの経営の環境整備としてまずは、社内ベンチャーは他の業務と切り離し、独自の組織運営を行う環境を整えることが大切です。兼業するよりも推進力が上がり、事業化スピードも上がるでしょう。

共通のビジョンや文化を持つ

両利きの経営を根底から支えるのは、企業全体に根付く共通したビジョンや文化です。研修や社内報、日常業務の中で浸透させ、理解と共感を得る努力をしましょう。

共通したビジョンや文化が根ざしている企業では、トップダウンや複雑な稟議や決済の手順は必要ありません。社員一人ひとりが会社のビジョンを理解しているため、自由に発想させてもビジョンに沿った適切なイノベーションのアイデアを持つことができます。  

まとめ

両利きの経営は、著名な経済学者の提唱した経営理論です。日本国内でも両利きの経営の必要性を感じる経営者やビジネスパーソンの間で話題になっています。

両利きの経営では知の探索と知の深化という2つの取り組みが必要です。しかし、バランスよく2つを進めるのは難しく、現実的には課題もあります。両利きの経営を成功させるためには、実践のポイントを押さえて正しく進めなければなりません。

イノベーションは成功までに時間もコストもかかりますが、リソースを十分に使うことで企業はさらなる成長を遂げ、経営は安定するものです。経営者は自らがイノベーションのジレンマに陥ることを避け、適切にリーダーシップを取りましょう。

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