Co-Studio×神戸新聞社対談【後編】半年で‟市民”が2件の起業を実現!社会課題を解決する場所にイノベーションは生まれる

Co-Studio×神戸新聞社対談【後編】半年で‟市民”が2件の起業を実現!社会課題を解決する場所にイノベーションは生まれる
「信頼」と「共感」を軸にしたコミュニティを形成し、社会課題を解決するイノベーションを生み出すCo-Studio。Social Goodな未来の実現に向けてクライアントと一緒に考え、汗をかく共創のスタイルで、これまで設立したスタートアップ企業は9社(2022年3月現在)に上ります。 そのCo-Studioのイノベーション創出の考え方とプロセスを事例で紹介する対談シリーズ。第2弾は、2021年4月にオープンした神戸市の新たな知的交流拠点「ANCHOR KOBE(アンカー神戸)」でのワークショップの事例をご紹介します。
神戸新聞と有限責任監査法人トーマツ他が運営する「アンカー神戸」のオープンに先立って開催された市民ワークショップのファシリテーションを担当することになったCo-Studio。このワークショップでは、結果として半年間で2件のプロジェクトが事業化し、法人設立につながりました。
思いややりたいことが異なる市民を集め、そこからどうやってチームビルディングし、起業まで導いたのか? そのストーリーを、アンカー神戸を運営する株式会社神戸新聞社との対談形式でお届けします。今回はその後編です。

※前編はこちら
<対談者>

株式会社神戸新聞社 神戸新聞地域総研地域連携部次長/アンカー神戸 ゼネラルマネジャー 篠原佳也

Co-Studio株式会社 COO(最高執行責任者) 今林 知柔

市民のバラバラな思いを一つのベクトルに向ける「仕掛け」

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――アイデアもやりたいこともバラバラなメンバーを一つの方向に向けるために、ファシリテーターとして工夫した点は何ですか?

今林 ファシリテーターとして、二つの工夫をしました。一つは、グループのメンバー構成です。「エゴグラム」でそれぞれのメンバーの性格を診断して、全員で共有しました。そのエゴグラムの診断結果も使って、メンバーを3つのグループに分けました。チームで参加していた人もすべてシャッフルして、混ぜ合わせたグループで議論を進めました。

もう一つは、メンバーの思いを一つにすることです。このプロジェクトのテーマである、震災の記憶をメンバー全員で共有し、強く意識できるような「仕掛け」を盛り込みました。

具体的には、阪神・淡路大震災から26年目の2021年1月17日に、メモリアルイベントをオンラインで開催しました。篠原さんにもご協力を頂き、地方新聞社のネットワークを活用して東北は河北新報社、熊本は熊本日日新聞社、そして神戸新聞社の記者さんに登壇をお願いし、震災について、自助共助について、当時のことも振り返りながら語っていただきました。

篠原 こういったイベントをプロジェクトの要所要所に織り込むことで、参加するメンバーにも「あの震災を忘れたらあかんよね」と、一体感が徐々に醸成されていくのを感じましたね。

半年間で2件の起業が実現!

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――参加者の思いをひとつにする「仕掛け」も盛り込みながら、最終的にどのように事業化につながっていったのでしょうか?

篠原 ワークショップを開始してから2か月後に、「ITによる自助共助」というテーマから、大きく2つのプロジェクトチームが生まれました。それが「スマート自治会」と、「アートによる心の癒し」です。

「スマート自治会」は、スマートフォンアプリなどのIT技術で新たなリアルコミュニティづくりに取り組むプロジェクトです。ここには大学講師とアプリ開発者という、プロジェクトを主導できる二人のキーパーソンがいたので、最終的なアウトプットにつながるだろうという期待がありました。実際、後に「一般社団法人 関西産官学民連携地域課題研究機構(KIC)」という団体を設立し、事業化されました。

一方の「アートによる心の癒し」のプロジェクトには、音楽療法士のジャズピアニストという、ユニークな強みを持っているキーパーソンがいました。ただ、「スマート自治会」のプロジェクトと比較すると、事業化までのロードマップが終盤までなかなか描けていなかった。「このプロジェクトを、今林さんはどう導いていくんやろ?」と、不安と興味が入り交じる思いで見ていましたね。

今林 コンサルタントがよく使うような、音楽療法業界をセグメントして……というフレームワークに当てはめて考察する方法もありますが、それならCo-Studioがあえてやる必要はありません。それよりは、むしろこの音楽療法士ご本人のやりたいことや思いに耳を傾けながら、「この人にどういう人を掛け合わせたらおもしろくなるだろう?」と考えることに注力しました。そして、高校の数学の先生と中小企業診断士の方を連れてきて、プロジェクトに入ってもらいました。

その結果、こちらのプロジェクトも2021年5月28日、法人として創業することができました。それが、音楽をはじめとするアートを使った「心を癒すアートを処方する」活動を行う「528株式会社」です。事業の第一弾として「IT×アート」により心を癒し、自尊心を育むアートワークのサービス開発を進めています。

篠原 私たちとしては「最低でも1つは実績につながる成果を出したい」という期待はありましたが、まさか2つも起業実績を出せるとは……夢にも思っていませんでした。私たちにとっても、そして神戸市にとっても、アンカー神戸のオープンに向けて弾みとなる大きな成果が得られました。

“カオス”の中にこそイノベーティブなアイデアは宿る

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――20名の市民の方が、ほぼ初めて顔を合わせるところからスタートして、しかもリアルで会う機会も限られる中、半年間で2件の起業実績につながった。あらためて、その要因は何だったのでしょうか?

篠原 一言で言うと、Co-Studioさんのファシリテーション力に尽きます。

集まった市民の皆さんはそれぞれ熱い思いを抱えているのですが、そのベクトルが一致しておらず、スタートした時点では“カオス”だったと思います。その“カオス”を、メンバーの性格や思いを把握しながらうまくチーム分けして、それぞれの長所を生かしていきながら、皆さんの思いを自然とひとつのベクトルに向けていった。それが、「ゼロからイチ」を生みだした大きな要因ですね。

また、ファシリテーターの中には、議論を整理・集約していく過程で、方向性を逸脱したアイデアや意見などを切り捨てるタイプの人もいると思います。でも今林さんはどの意見やアイデアもおもしろがり、決して切り捨てない。それでいて、皆さんを共通の目標に向かわせるところがすごい。

今林 メンバーの皆さんがそれぞれ抱えている思いは、本当に「尊い」んです。たとえばあるメンバーは「独り暮らしで引きこもっている高齢者を助けたい」という思いを持っている。それだけでもう「尊い」ですよね。その思いを切り捨てるというのは、人としてできません(笑)。だからこそ、基本的には皆さんの思いやアイデアを決して否定しませんし、何より私自身が興味をもって、おもしろがって聴くようにしています。

ただし、いくら「尊い」アイデアを持っていたとしても、それが相手に伝わらなければ意味がありません。しっかり言語化して伝え、メンバー間で共有することはファシリテーターとして意識していましたね。「それってこういうことですか?」と言い換えたり、「そういうアイデアを持っている人、知っていますか?」とメンバーに問いかけたりしていくことで、その人のアイデアの解像度が上がっていく。そしてメンバーの理解が深まり、共感の輪がじわじわ広がっていく。このプロセスが重要ですね。

篠原 “カオス”の中にイノベーティブなアイデアが隠されている――よく聞く話ではありますが、今回のワークショップでまさにそれを間近で見せてもらいましたね。ネットを探せば見つかるようなありふれた予定調和なアイデアでなく、みんなが思いつかないような答えを導いてくれる。Co-Studioさんに頼むときは自ずとそこを期待してしまいます。

今林 ただ、最初から鮮明な旗を立てて、その旗に向かって「導いた」というきれいな進め方ではなかったと思います。むしろ旗もない中でなんとか「手繰り寄せた」という表現が近いかもしれませんね。

人と人の「掛け算」で、社会課題を解決するイノベーションを生みだす

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――現在のアンカー神戸での取り組みについてもお聞かせください。

篠原 冒頭でもお話ししましたが、「課題解決プロジェクト」というアクセラレーションプログラムがいま始動しています。4つあるチームの1つに、今林さんにメンターに入っていただいています。

実はそれ以外にも、プロジェクトが行き詰まったときはそっと今林さんに相談させていただいています。私の中では「困ったときのCo-Studioさん」なんです(笑)。

今林 篠原さんにとっては「困ったときの……」かもしれませんが、実は篠原さんの持ってきてくれる案件はどれも「オモロい」んですよ。だから私も喜んで食いつく。ある意味相思相愛ですね(笑)。

おそらく篠原さんには新聞記者ならではの「おもろそう」なネタをピックアップしてくる目利き力があるんでしょうね。その篠原さんがパスをくれたネタだから、私たちももっと「オモロい」方向に転がしていこうと、いい意味でプレッシャーを感じています。いわば、篠原さんが舞台の総合プロデューサーで、私が舞台を演じるアクターのような関係ですね。

篠原 それと、今林さんとzoomで話していると、不思議と元気になるんですよね。ポジティブなパワーをいただける。こういった起業家支援や新規事業創出のプログラムというものは、正解が見えない状況で進めなければいけません。毎日のようにさまざまな壁にぶつかりますし、ネガティブな感情になることも正直あります。でも、今林さんをはじめCo-Studioの皆さんと話していると、不思議と身体の中にパワーがみなぎるような感覚になれる。そういうこともあって、ついつい相談してしまうんだろうなと思います(笑)。
――最後に、このアンカー神戸をどんな拠点にしていきたいですか?

篠原 アンカー神戸に相談に訪れる企業は、コロナ禍の影響もあり本業がだんだん苦しくなって、なんとか新しい事業を生みだしたいと切実に悩んでいる方ばかりです。そういう悩みを共有するだけでも楽になるし、さらにその悩みに寄り添えるような支援をしていくのがアンカー神戸の役割であり、結果として神戸の街が元気を取り戻していくと思っています。

でも、新規事業を生みだすことは容易なことではありません。アイデアも出尽くして膠着しているような事態を動かせる人が必要で、Co-Studioさんはその「動かせる」人たちです。そのことは、今林さんが立証してくれています。これからもCo-Studioを頼って、困っている企業や人をどんどん紹介していきたいですね。

今林 人と人との「掛け算」がイノベーションを生む――そのことを、今回のワークショップであらためて私も再確認できました。Co-Studioでは「社会を健康にする」というコンセプトを掲げています。社会が健康でないということは、そこに何かしらの社会課題があるということ。その社会課題を解決するアイデアが、どういう「オモロい」掛け算で生まれるだろうか? ということをこれからも考えていきたいですし、どんなアイデアがアンカー神戸で生まれるのか、私自身も楽しみですね。篠原さんにはこれからも「オモロい」パスを期待しています(笑)。

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